解説
- 梅毒トレポネーマ・パリダム(TP)という病原体によって起こり、主として性行為(キスも含む)などで感染します。
- 顕性梅毒(皮膚や粘膜症状がある)と潜伏梅毒(症状なし)が大半である。
- TPによって主に陰部から陰部へ移って感染する。稀に口から口へ感染することもあり、乳首、輸血からの感染例もある。
- 稀に衣類や食器、カミソリなどから感染することもある。
- 皮膚や粘膜の小さい傷から感染し、やがて内臓・心血管系・骨・中枢神経など、全身の器官が侵される病気である。
- 温度や湿度の変化に弱く死滅することが多く、殺菌剤でも簡単に死滅する。
梅毒の一般的経過
A)顕症梅毒
梅毒の病原体TPが感染して9週までを第1期梅毒、9週より3年までを第2期梅毒、感染後3年以上を第3期梅毒という。感染後10~15年経つと脳と脊髄に変化をきたし、変性梅毒または第4期梅毒と呼ぶ。潜伏期間は3~6週間。
第1期 <しこり> 3~9週間、梅毒血清反応陽性 (早期梅毒) |
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初期硬結
硬性下疳
6週間より、両側鼠径部の所属リンパ節が硬く腫張する。無痛性で、治療せずに放置しておいても3週間ほどで消退する。 |
第2期 9週間~3ヵ月、梅毒血清反応強陽性 (早期梅毒) |
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バラ疹
時に梅毒性丘疹に移行する。12週間後に発生。
粘膜疹
潜伏梅毒
硬性下疳、バラ疹、梅毒性丘疹、粘膜疹など、皮膚および、粘膜の梅毒性病変は痒みや痛みがなく、治療を受けなくても、自然に消退してゆくのが梅毒の特徴である。 |
第3期 3年~10年 (晩期梅毒) |
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ゴム腫
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▼無治療ままで進行
第4期 <歩行麻痺、痴呆> 10年~ |
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B)無症候梅毒
- 臨床症状は認められないが梅毒血清反応が陽性のものをいう。
- TPHA法またはFTA-ABS法によって生物学的偽陽性(BFP)を除外する必要がある。
BFPは、膠原病、リウマチ熱、妊娠などで見られる。 - 初感染後全く症状を呈さない場合や、第1期から2期への移行期、第2期の発疹消退期や陳旧性梅毒などの場合がある。陳旧性梅毒の中には治療を要しないものも数多くある。
C)HIV感染に併発した梅毒
- 細胞性免疫不全によるトレポネーマへの宿主の防御機能低下のため潜伏期間が短縮する。
- 病期が異常に早く進行するため第1期から3期まで通常3年かかるのが、エイズ患者では数ヵ月で経過し、神経梅毒へ速やかに進展していくこともある。
- 梅毒血清反応の定量値が異常な高値や低値を示したり激しく変動することがある。
- 梅毒血清反応が陽性を呈しない場合もあり、特に血液製剤によるエイズ感染者はほとんど陰性である。
- 病巣は重篤化し、水疱、膿疱、深い潰瘍が広範囲に発生し治療に抵抗する。
臨床症状
【女性】
- 性的接触2~3週間で陰部(大小陰唇や膣の内側)に汚い分泌物をかぶった固いしこりが発生する。痛みはない。
- 続いて鼠径リンパ節が腫れるが、痛みはなく放置すれば自然に消える。
【男性】
- しこりは包皮や陰茎などに発生し、その後表面が破れてびらんや潰瘍になる。太もものリンパ節が腫れ梅毒性リンパ節炎になるが痛みはない。
- しこりは放置しておくと治ってしまうので気にしない人がいるが、放置すると第2期梅毒に進行してしまい、治りにくくなるので注意する必要がある。
- 2~3ヵ月後には全身に発疹などの皮膚症状や外陰部などに小豆大のできものが現れる。
潜伏期と症状がでる時期を繰り返し進行する病気。潜伏期間が長いため知らないうちに多くの人にうつしてしまう可能性がある。
検査(採血)
1)クイックテスト :15分で結果がわかる
- 梅毒に対する抗体(免疫の有無)を検査。感染機会から6週以上経過していれば検出可能。
2)TPHA+RPR定量 :2日以内で結果がわかる
- 梅毒に対する抗体価を数値として検出。
- 現在感染中か過去に感染したことがあるかを鑑別することもできる。
- 治療の効果の判定にも使用します。
抗生剤により治療
- アモキシシリン :4週間以上内服
- ミノマイシン :同上
- エリスロマイシン :同上
※治療開始後、数時間~数日以内に発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛、リンパ節の腫大などが出現することがある(Jarish-Herxheime反応)が、急激なTPの死滅が原因であり安静で軽快するため、梅毒の治療はそのまま続ける。この時期の発熱や疼痛に対しては内服等で軽減させていきます。
治療・治療効果の指標としてのRPR・TPHA定量
- 梅毒の治療効果はSTS法の抗体価とよく相関するので、病期に応じた十分な治療を行った後は臨床症状の持続や再発がないこと、STS法を定期的に追跡して定量値が低下することを確認する。
- 治療後6ヵ月経過しても16倍以上を示す時は治療が不十分であるか再感染であると考えられるので再治療を行う。このような例はHIV感染に併発した梅毒の場合に認められることが多いのでHIV抗体価の検査も行う必要がある。
パートナーの追跡
第1、2期顕症梅毒または感染後1年以内の無症候梅毒と診断された患者と90日以内に性的交渉があった場合には、パートナーの梅毒血清反応も行うべきである。陰性の場合でも経過を観察するべきである。
最後に
- 十分な治療後も抗体価の低下に時間がかかるので、抗体が完全に低下するまでは定期的な診察や検査を続けることが再発や再感染を防ぐために必要である。
- 梅毒患者はHIVに感染しやすいのと同時にHIV感染者には梅毒が多く認められるので、すべての梅毒患者はHIV抗体の検査を行うのが望ましい。